後半は、同じ1840年に生まれたモネとルドンの「知られざる共通点」をさらに深掘り。印象派の「光」とルドンの「影」を繋ぐキーワードは、当時の最新科学である「進化論」や、風景画の巨匠コローの教えにありました。さらに、床が抜けそうなほどの「蔵書」や、ミレーの《種をまく人》の展示方法など学芸員の矜持が語られます。Guest Profile
- 安井裕雄(やすい ひろお) 三菱一号館美術館上席学芸員
- 1969年生まれ。財団法人ひろしま美術館学芸員、岩手県立美術館専門学芸員を経て、現在、三菱一号館美術館上席学芸員。専門はフランス近代美術。
- 主な担当展覧会に「モネ―睡蓮の世界」(共同監修、2001)、「シャルダン―静寂の巨匠」(2012)、「ルドン―秘密の花園」(2018)、「全員巨匠!―フィリップス・コレクション展」(2018)、「1894 Visions ルドン・ロートレック展」(2020)など多数。「ルドン―秘密の花園」では第13回西洋美術振興財団賞「学術賞」を受賞した。主な著書に『もっと知りたいモネ―生涯と作品』『モネ作品集』(東京美術)、『ルノワールの犬と猫―印象派の動物たち』(講談社)、『図説 モネ「睡蓮」の世界』「『印象派の誕生 混沌からの出発と豊穣なる遺産 』(創元美術史ライブラリー)」(創元社)、共著に『モネ入門―「睡蓮」を読み解く六つの話』(地中美術館)、『地中美術館』(公益財団法人福武財団)がある。
Show Notes
- 三菱一号館美術館について
- 三菱一号館美術館: 1894年に英国人建築家ジョサイア・コンドルが設計した「三菱一号館」を、当時の設計や製法(型枠成型のレンガなど)に基づき忠実に復元し、2010年に開館した美術館。
- 「モネとルドン」の時代の画家や文学
- カミーユ・コロー: ルドンが初期から晩年まで決定的な影響を受けた画家。写実を超えた詩的な「想い出」シリーズで知られ、ルドンに「不確かなものの傍には確かなものを置いてごらん」という指針を与えた。
- ドミニク・アングル: ドガが心酔した新古典主義の巨匠。ドガに対し「線を引きなさい。たくさんの線を。そうすれば良い画家になるだろう。」と助言し、ドガのデッサン重視の姿勢を決定づけた。
- さかしま: ジョリス=カルル・ユイスマンスによる小説。作中でルドンの版画が言及されたことで、彼が世に知られる大きなきっかけとなった。
- 展覧会情報
プロデューサーの編集後記
- 後半戦は、安井さんの「学芸員としての凄み」が爆発した回でした。ミレーの《種をまく人》を観る観客の「明度による瞳孔の拡張と収縮」の動きまで計算して照明を設計していたというエピソードには、思わず鳥肌が立ちました。
- 安井さんが語る、絵画を味や甘さに例える表現が非常にユニークで印象的でした。コローの絵画が持つ甘さを、単に精製された上白糖のようなものではなく、砂糖大根やサトウキビのような雑味やリアリティを含んだ芯のある甘さと表現する感性は、視覚情報を身体的な感覚にまで落とし込む学芸員ならではの深い観察眼だと感じました。
- 「本がないと安心できない」と語り、常に自分をアップデートし続けるその姿は、まるでルドンが自身の幻想を「確かなもの(科学や観察)」で支えようとした姿とも重なります。
- 印象派を「光」の代名詞としてだけでなく、当時の知的な熱狂の中に位置づけ直す安井さんのトーク。この放送を聴いた後に美術館へ行けば、一枚の絵から立ち上がってくる情報の密度が、これまでとは全く違って感じられるはずです。